フードバンクの周辺2014⑦―生活保護ぎりぎりの仕事と暮らし

写真と文は関係ありません
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●「ワケありの人」が吹き溜まる所

 「最近の格安のホテルは仲居さん置かないんですよ」というのは上田さん(50)。ホテルの接客以外の裏方の仕事を請負う会社の労務管理をしてい る。従業員は生活保護すれすれの生活をするいわゆるワーキングプア(働く貧困層)がほとんどだ。フードバンクが食品援助している。

 「ほとんどがワケありの人ですね。しかも半分が60歳以上の高齢者です」という。会社が借り上げているアパートは6か所。日光、鬼怒川、塩原、 那須の温泉地に約90人住んでいる。バブルがはじけて事業に失敗した人、周囲の人に借金しまくって逃げている人、定年退職のその日に「今日で出 ていってください」と離婚された人、入れ墨がある人、路上生活者、刑務所から出てきた人、児童養護施設出身者などだ。「みんな派遣とか、いろんな 仕事を転々としてきて、いろんな人に騙されて、落ち込んでいった人がい多いね」と上田さん。

 昔の温泉ホテルは手取り20万円で食事+宿所も無料だったが、今は多い月で手取り16~17万円。仕事がない冬場は良くて10万円、働け(働 か)ない人は5、6万円という。いい人で月平均12万円程度だ。もちろん食事も宿所もついていない。

「1年のうち、8月、10月、11月の3か月間と年末年始、GWだけが忙しい時期で、あとは閑古鳥が鳴いてますね」。どこもホテルは厳しいとい う。そのホテルから請け負って仕事をしている。最低賃金は出しているが厚生年金までは出せない。国保・国民年金でやってもらう。仕事の絶対量がそ もそも少ないのだ。

 

●移動するうちに失くしてきた証明書類

 これでは生活保護ぎりぎりか、病気でもすると生活保護以下になってしまうのではないかというと、「実際は生活保護以下ですよ。会社でアパート代 の半分と布団・TV、毎月の米、卵やレトルト食品とかは補助していますが、それでも2、3万円は自己負担。さらに国保・年金も10万円位の給料か らそれを出すと苦しいですよね。生活保護の水準ですが皆さん申請しません。自分を証明するものがないから。遠い故郷までいけば戸籍とかあるけど ね」。移動を重ねているうちに保険証も免許も、住民票も失くしてきた。国保の滞納もあるし…。そう考えると申請を諦めるのだという。

 

●病気や死んだ後まで面倒もみる“温かい”会社

 「問題は病気の時。手術が必要な段階になってやっと生保申請の書類を取りに行くんですよ。高齢ですからお亡くなりになる人もいます。身内に連絡すると、もう関係がないからと拒否されます。生活保護の場合は火葬の費用は出ますが、お骨の引き取り手がないですね」。病気や葬儀のことまで面倒 をみている。

 「これだけの給料しか出せないですよ、と言ってから採用します。そう言うと半分ぐらいは違う所を探しに行ってしまいますが、でも結局また戻って くる。『雇ってください』って。そこまで仕事がないんですね」。上田さんのところのような“温かい”会社は少ない。普通はアパート代の1/3か1 /4の補助で、あとは自分でやってね、という場合が多いそうだ。上田さんは「底辺の仕事、社会の吹き溜まりなんだね」というが、仕事があるだけ じゃなく面倒見のいい会社(社長)がいないと、事情のある人は仕事場も居場所もないのだ。

 「景気のいい時は、会社がこういう人をかばってきたんだよ。でも今は会社もかばいきれなくなって、国のセーフティネットもうまく機能していない んだね」と上田さん。こうした“温かい”会社も収支がトントンであれば温情をかけられているが、いつまでできるかは分からないのももうひとつの 現実だ。(やの)

 
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